【感想】 東芝の悲劇

 

 

 

東芝の悲劇 (幻冬舎文庫)

東芝の悲劇 (幻冬舎文庫)

 

 

東芝の不正会計発覚から時間を巻き戻しなぜこのような事態が発生したのかを東芝天皇と言われる西室泰三時代から掘り起こして言ったのが本書。これが日本のエリートなのかと愕然とするほどこの本に出てくる東芝の経営者たちには当事者意識がない。西室から岡村正、西田厚聦、佐々木則夫の四代を軸に物語は進む。黒字を維持するために不正会計とされた「バイセル取引」を行い、それを辞めさせる自浄作用が全く働かず、発覚後の記者会見では自らの保身のために関与を一切認めない言動には呆れる。個人の野望や名誉の為に人事を操作したり、社外活動に熱心なる様はとても責任ある立場の人間のやることでは無い。

さらに原発の企業であるWH(ウェスチングハウス)を資産価値の3倍もの額で買い取らされ、未来への具体的な青写真も無いまま結局不良債権化させてしまった構図は戦前の日本が勝算の無いアメリカとの戦争を行い無残に敗北したそれと同じだ。しかも不正会計発覚後にその減損処理を行う為に東芝メディカルという優良な子会社を売り払う際に小細工をかますところは反省など微塵も感じなかった。

これは東芝だけでなく日本の大企業ならどこでも起こりうることなのではないかと感じた。

それは社長の出来の良し悪し関係なく任期制(東芝は四年)であり、社内からしか登用されないのならば大胆な改革などできないし、息のかかった人物を後任に据えるのは目に見えている。東芝の場合は不正会計を引き継ぎ、退任後も会長になったり財界の主要なポストについて権力を維持している以上、新社長がそれをひっくり返すのは至難の技だっただろう。

歴代の個人の資質や人間性よりも組織環境やシステムが間違っていると人は容易に腐っていくというのがよくわかる本だ。